UXエンジニアになりたい人のブログ

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枯れた技術とアイデアの組み合わせで最高の付加価値を実現した3例

メーカーの新商品・新サービスって、基本的には新技術が中心なんです。

  • 一般向けデジカメとして最高の3200万画素のCMOSセンサーを用いた高画質デジカメ
  • リッター〇〇kmの低燃費を実現する新開発したエンジンを核とした低燃費軽自動車
  • 負荷増大後数秒でスケールアウトできる動的ロードバランサ機能を備えたIaaSサービス

とか、そんな感じ。コモディティ化した製品だと「生産工程を見直すことにより今までにない低価格を実現した〇〇」みたいなアピールポイントになることもあるけど、ともかく"長時間かけて開発した基礎技術を核に、他社と差別化をはかる"のが基本戦略なのです。

 

ですが、そういうのとは別のパターンで「これ技術は普通だけどアイデアだけで使い手からするとすげえブレイクスルーを実現してるな!」的な商品やサービスが出ることがたまにあるんです。

称賛を込めて、その例を3つほど紹介したいと思います。

 

スマイルシャッター(2007:ソニー)

デジカメに搭載された「笑顔の瞬間を検知して写真を取る機能」

商品の特長 | NEX-5K

顔認識機能自体はかなり古くから存在し、2007年当時ではデジカメ・デジタル写真においてかなり一般的でした。

主な利用用途は

  • 撮影時のピントや露出合わせ(目にピン、顔にピン、顔の明るさを露出やWBの基準にする、etc...。主にカメラメーカーが使用)
  • 写真内の個人を特定する(その人が写っている写真だけを抜き出したり、アルバム化したりする、etc...。写真管理ソフト・サービスなどが使用)

など。目、鼻、口の位置がわかる程度のライブラリであればフリーソフトでもごろごろしており、各メーカーは独自技術を使って精度向上に取り組んでいた、くらいの時期です。

要するに、カメラ関連の顔認識とその応用は当時もう枯れた技術だったのです。

 

この状況でソニーの技術者(?)は突如、顔認識の結果をシャッターのトリガーに使うことを思いつきます。*1

そしてできたのがこの機能。実現できたのは「笑顔の写真しか入っていないカメラ」

2006年のカメラはいろいろな写真が入っているのに、2007年のカメラは笑顔しか入ってないのです。笑顔の瞬間だけを切り取って後世に残しておけるカメラ。

・・・ステキやん。

 

少なくとも、「2006年モデルに比べて逆光時の顔認識補正率が45%向上!」的な売り文句とは一線を画すレベルであることはわかるのではないかと思います。

 

アラウンドビューモニター(2007:日産)

駐車時に、車の真上数mにあるカメラから見たような視点で周囲の状況が確認できるモニター画面。

 そもそもこれ最初みるとどうやってやってるかビビるんですが、上下左右にカメラ付けて画像合成しているんですね。つまり車の屋根の部分は実車の映像ではないのです。

 

2007年当時、駐車アシストはバックモニターが一般に普及していました。携帯電話にも当たり前にカメラが搭載されてました。

要は、モニターもカメラもそれを使った駐車アシストも単体としては枯れた技術でした。

 

ここで日産の技術者(?)は、突如カメラを4つつけるアイデアを思いつきます*2

そしてできたのがこの機能。実現できたのは「ラジコンのように上から見たカメラを見ながら駐車できる車。もう駐車を不安に感じないわたし」

・・・ステキやん。

 

余談ですが、永らくの間、このオプションはエルグランドとセレナというミニバンにしか搭載されていませんでした。

メーカーの論理では

周りが見える→死角が多い車で有効→大きい車で採用

なのでしょう。

が、UX的な視点で考えると、この機能のもたらす体験は「駐車時の不安感の低減」であるので、駐車が苦手な人が多くいるセグメントに採用しないと意味が薄いはずです。

昨年あたりからようやくコンパクトカーや軽自動車にも採用され始め(嵐のCM覚えてる人も多いでしょう)てますが、これ、技術者がどんな体験を想定してつくったのか、マーケターや"メーカーの論理"が技術の価値をつぶしていたのではないか?的な視点で見るとかなり興味深いです。

 

天井スピーカー(2014:パナソニック)

照明器具をつける金具(引っ掛けシーリング)のところにつけるBluetoothスピーカー。天井と照明器具の間に挟みこむ感じになる。

これは今年なので状況は馴染み深いかと思いますが、スマホが普及してワイヤレススピーカーで音楽を聞くライフスタイルが一般的になってました。Bluetooth自体はもっと昔からあるし、引っ掛けシーリングは昭和の時代からあります。

つまりそれぞれの技術単体は枯れた技術でした。

 

ここでパナソニックの技術者(?)は突如、天井の引掛シーリングから電力を得るスピーカーを思いつきます。*3

リビングにはいろいろな居住空間があって、音の指向性を考慮しなければなりません。真ん中に全方位スピーカーがあればいいですが、電源コードが不恰好だしそもそも邪魔だし。

この商品はそれをすべて解決しました。実現したものは「コードの不恰好さどころかどこから音がなってるかもわからないスマートなスピーカー」*4

・・・ステキやん。

 

 

いかかでしょう?

これらに共通していることとして、枯れた技術を用いているにもかかわらず、競合他社に対して「比べる」という行為が意味を成さないほどの圧倒的な効用を実現しています。*5

この実例を参考に、漸進的な技術革新と並行して、アイデアの力をみなおしてみるのも良いのではないでしょうか。*6

*1:実際どうやってこのアイデアを思いついたかは興味深いです。たとえば子供の笑顔の写真がうまく撮れないとか、見返してみたら目つぶった写真ばっかだったとか、そういう技術者自身の「体験」が元だったのではないだろうか

*2:アラウンドビューモニター - Wikipediaによると、"2005年から日産、Xanavi、ソニーで共同開発を開始"らしい。仕掛け役はソニーか?

*3:これはどちらかというと、「様々な場所でより良い音が聞けるスピーカーレイアウト検討」みたいな会議で生まれた気がします。冷蔵庫にルーターを付ける、みたいなアイデアがでたのと同じ種類のプロセスを踏んでるような

*4:この商品の成功にはワイヤレスで音楽を聞くライフスタイルの定着が大きく関係しています。だって、この商品にSDカードスロットが付いてたとして、曲を入れ替えるために毎回脚立を用意してカードを入れ替えたりしますか?w

*5:こういうアイデアこそ特許で保護すべきとは思うのですが、アラウンドビューモニターはトヨタホンダが類似商品を用意しているようです。特許が出せてないのか、回避しているのかまで調べきれていないですが、興味深いです。天井スピーカーは特許にならないでしょう

*6:脚注にかきましたが、個人的にはこのようなアイデアがどのようなプロセスを経て生まれたのかが気になります。このような「既成の枠組みの外から生まれた価値」の創出法が、ソフトパワーの活用みたいな話につながっていくのかと