UXエンジニアになりたい人のブログ

エッチだってしたのにふざけんなよ!

革新と大コケの両方の可能性を感じる3D Touch

iPhone6s/6s Plusが発表されて、Force Touchと呼ばれていた機能が3D Touchという名前であることが明らかにされました。

 

iPhone 6s - 3D Touch - Apple(日本)iPhone 6s - 3D Touch - Apple(日本)

上記ページでも動作ビデオが見れますが、基本的にはPeek(軽押し)とPop(強押し)というアクションで構成され、Peekでいわゆるコンテキストメニュー的なものが出て、PopでPeek処理を確定させるという流れが主のようです。

文字通り、興味の対象を覗き見て(Peek)、入りこむ(Pop)ことが直感的にできるということですね。

 

で、ぶっちゃけどうですかこの機能。わたしは革新と大コケの両方の可能性を感じたので、その両面を書いていこうと思います。

 

革新側

Peekはうまく使えば、タッチUIが待ち望んでいたマウスオーバーや右クリックの代替になりうるのが大きな理由。

デスクトップアプリやWebであれば、興味の対象にマウスオーバーしたり右クリックして、"実際に処理を実行する前に"できることや起こることの一端を知ることができる。

一方、タッチスクリーンは小さく、表示される情報が限られている。にもかかわらず「覗き見て調べる」がやりづらい。処理の内容を垣間見ることはできず、ところかまわずタップして戻る、という操作を繰り返さなければユーザーは学習できない。

初期に考えられたシンプルな単機能アプリばかりではなくなった昨今、"直感的でルールに従ったUI"だけでアプリができることを表現しきるのは不可能だ。特に構造上androidと比べてアプリ間連携に難があるiPhoneでは、UXデザインはもう「詰んでいる」状態にあったのではないかと思う。

 

もっと端的に言えば、新しいアプリを使うたびにいろんなところをタップして、そしたらなんか急に別の画面やらアプリやらが立ち上がって、わかんなくてなってホームに戻ってやり直し、慣れてきても「ホームをダブルクリックしてアプリを切り替える」「上下左のスワイプにそれぞれ意味があって状況にあわせて判断する」なんてことを頻繁にしなきゃならない操作体系なんて、正直みんなうんざりしてたんじゃないか?違うかい? 

 

3D Touchはこの状況を劇的に改善する可能性があると思う。

興味の対象をPeekする。期待した通りの機能であればそのまま押し込む。違っていたら、離す。離せば、元の画面に戻る。リストだろうが画像だろうがアイコンだろうがボタンだろうが、同じ操作。この安心感、汎用性。まさに直感的と呼ぶにふさわしい。

「一度体験したら戻れない」iPhoneを代表する機能になる可能性を秘めているように思う。

 

また、おいそれと真似できない機能であることも大きい。以下の記事にもあるように、Taptic Engineという専用ハード(?)と職人芸的な調整がもたらすバランス感覚こそが3D Touchの競争源泉であることは明らかだ。こういう繊細なバランス調整を伴う作業をやらせたらAppleの右に出るものはいないだろう。

たとえ他社がうわべだけ真似をしても、ちょっとバランスを間違えると単なるストレス機能になってしまう。Peekしたつもりだったのにタップされたとか、タップしたつもりなのに強押しのPopになって想像と違う振る舞いをするとか、想像しただけでも腹が立つ。

 

まとめると、タッチUIが持つ根源的な不都合を解決しうる機能であること、Appleの強みを生かした真似されづらい機能であること、の2点が革新側の理由になる。

 

大コケ側

定かではないが、Apple公式の書きっぷりだと、ホーム画面のアイコンにもPeek&Popが使えるらしい。Peekがポップアップメニュー呼び出しで、Popが特定機能のショートカット呼び出しのよう。

今まで通りタップと長押し(アイコン並び替え)があるとすると、タップする・長押しする・軽く押す・強く押す、の4操作があることになる。マジか

しかも、

EメールをPeekで覗いている時には、右にスワイプして削除したり、左にスワイプして未開封の印をつけることができます。

なんて記述まである。ただでさえ、ジェスチャー地獄となりつつあるiPhoneに、さらにタッチの強さという要素まで加わる。そして3D Touchはジェスチャーと同じくらい「どこでそれが使えるか」がわかりづらいことが予想される*1

実は裏技的にあらゆるところにジェスチャーやら3D Touchが仕込まれていて、それを知ってるか知らないかによってストレスや生産性に大きな差が出る。知るために各アプリごとにnaverまとめを探し出してきて勉強する、なんていう直感的とは真逆の流れになるなんてことも起こり得るのではなかろうか。

 

そもそもだよ?3D Touch、親に説明できるか?

「ねえ電話がうまくかけられないんだけど。電話しようとすると自動でお父さんに電話かかっちゃうの」

「それ強押ししてんじゃない?もっと軽く押してみて?」

「そうしたらなんか着信履歴が出てくるんだけど。ねえどうやったら電話帳出てくるの?」

「いやそれは軽押しになってるんだよ。ブルってくるでしょ?ブルってこないように押してみて」

「強いとか弱いとかブルってくるとかどういうことなの・・・。普通に押してるだけなんだけど・・」

なんて電話がかかってきて、日本全国のお子様がうんざりするのではないか?

 

革新側ではAppleのバランス感覚の強みを生かしたものすごい競争源泉になりうると書いたがこれは逆もまた真だ。タッチとプレスが「誤爆」するようなことが起こると途端にクソ端末ということになってしまう。

親じゃないけど、押すたびに違う機能が立ち上がる不良品のレッテルを貼られる可能性があるのではなかろうか。ていうかほんと、タッチと軽いプレスと強いプレスなんて判断できるのか?初期導入から攻め過ぎだろw

 

アプリベンダーの動きも気になる。昨今、商売でアプリをやるなら、iOSだけとかAndroidだけにアプリをリリースするなんてことはありえない。

しかし、3D Touchに本気で取り組むなら、iOSアプリとAndroidアプリとで全く別のUX設計をしなければならない。この二重投資をベンダーがどう捉えるのか。かといって、安易に「Androidのメニューボタン押下時と同じコンテキストメニューが出ればいいや」などというベンダーが多くなると、興味の対象をPeekする(から対象ごとに細かな制御が行える)という基本コンセプトの競争力が失われてしまう。

 

ジェスチャーや3D Touchのさまざまな機能を覚えないとまともに使えない、精度不足による糞端末化、アプリベンダーがついてこない、の3点が大コケシナリオ。

これらでコケた場合、「シンプルで使いやすくて革新的なiPhone」のイメージまるごと致命的なダメージを受ける可能性が高くてヤバい。

 

まとめ

まあどちらにしろ、楽しみな機能ではあるし、まずは触ってその精度を確かめてみたいとは思います。革新側でもコケ側でも書いたように、精度はかなり重要なカギであるはず。

UIデザインガイドがどのように改訂されて、どういう指針が打ち出されるか、それに対してアプリ開発者がどう反応するかも気になる。

また、アプリ、特にゲームなんかは3D Touchならではの楽しさを持つものが生まれてきそうだし、それがプラットフォームの優劣を左右するような事態にもなるかもしれない。アプリ開発者にとっては楽しそうでやりがいありそうな機能だなあとも思う。

 

まあ結果的に革新になってもコケても楽しそうであるしブログネタにもなりそうなので、推移をウオッチしていこうとは思っております。

 

*1:ジェスチャーも結局UIで表現される動機付けはカルーセルくらいで、いまだにどこでピンチインできるかすら統一的な表現はないことを考えると、3D Touchも同じ道を辿るのではなかろうか